日本で作られる硯のことを、和硯(わけん)といいます。それでは、どんな和硯があるのでしょう?
生産量からいいますと、宮城県の雄勝硯が圧倒的なシェア(90%)を持っていましたが、2011年のの東日本大震災で、大きなダメージを受けて、現在は、少ししか生産されていません。しかし、原石である雄勝玄昌石は、充分にありますので、今後、復興するものと思われます。
国(経済産業省)の伝統的工芸品に指定されているのは、この雄勝硯と、山口県の赤間硯の2つだけです。
そして、生産量からは、三重の那智黒石硯、山梨の雨畑硯辺りが、次いで多いと思われます。雄勝、熊野、雨畑では、機械化されて生産された硯があるのも、生産量が多い原因になっています。
残りの硯郷は、あまり多くない硯職人で、何とか伝統を継承しているようです。(鳳足石硯のように、2009年に後継者不足で、途絶えたものもあります。)
硯の良し悪しは、石が堅過ぎず、柔らか過ぎず、そして、鋒鋩がしっかりとしたものが、良いとされています。それでは、具体的には、どの和硯が良いのでしょうか?
1984年に出版された、「和硯のすすめ
」(石川二男著)という本があります。その本の中で、和硯のランキングがされています。筆者の独断と偏見に基づいたものだと思いますので、それほど気にすることはないのだと思いますが、専門家としての基準でランキングされたものと思いますので、参考にはなると思いますので、取り上げてみました。
そして、これまでに、私が手に入れた硯の画像も加えています。画像をクリックすると、その硯の歴史や、特徴がわかるようになっていますので、ご参照ください。
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各産地の硯の評価 ★
硯の良し悪しを評価するのは、大変、難しいものです。ある程度、評価者の主観が入るのは仕方がないと思われますが、ネットから、拾った和硯の評価を上げておきます。
■ 赤間硯 ■ ★★
この硯は、鋒鋩(墨をおろす目に見えないほどの突起)の大きさが一定していて良いのですが、実用に供するには鋒鋩が小さく、少なすぎますので、必要に応じて目立て用の泥砥石
で硯の陸(おか)を研ぎ、鋒鋩を立てます。それによって墨が細かくすれ、墨色が良く、さらっと伸びの良い墨汁が得られます。
■ 雄勝硯 ■ ★★
原石は、黒色で光沢がある硬質粘板岩で、粒子が均質で圧縮や曲げに高い強度を持ち経年変化等への耐性が高いのが特徴で、鋒鋩の荒さ、細さ、堅さ、柔らかさが丁度良いバランスになっており、色は黒または暗い藍色で、豊かな艶があり、石肌は滑らかです。
雄勝玄昌石は、学生硯としての汎用品に、「豆腐石」と呼ばれるような柔らかいものも使われましたが、硬度の高いものもあります。質の良いものは、雨畑や、高島へ送られ、「雨畑硯」、「高島硯」となったこともあります。
■ 雨畑硯 ■ ★★★★
この硯は、硯面を触るとざらついた感じはしません。佳石になると鋒鋩があるのかな、とも思わせるくらい硯面がなめらかです。そのなめらかさとは裏腹に墨を良く下ろし、発墨もいいのが特徴です。
原石は粘板岩で、粒子が細く下墨、発墨が良く、また水持ちもよく、硯には最も適した石質であり下墨による石の変形も少ないため硯としての寿命が長いという特徴をもっています。
ただし、生産を増やすために、他の産地の玄昌石で作られた硯が、雨畑硯として出荷された時期がありますので、近年のものであれば、「雨畑真石」とあるものを選ぶ必要があります。
■ 若田石硯 ■ ★★★★
磨墨感は、雨畑硯よりは目が粗く、発墨は早い。若田石は他に類のない自然の彫琢をもっている。若田石の石質は温潤で石色は黒青、黄臕は褐緑石、層はきわめて薄く千枚岩といわれる粘板岩であります。
■ 那智黒硯 ■ ★
鋒鋩らしきものもかすかに見えますが、墨のおりが悪く、硯本来の機能があるかといえば、「乏しい限り」というしかないでしょう。
■ 龍渓硯 ■ ★★★
黒色粘板岩で、受墨・溌墨ともに佳く、若干落墨に難のあるものがあります。和硯の中では中堅的な存在です。原石の埋蔵量は多く、雨畑からも職人が移住して、作硯をしています。
■ 紫雲石硯 ■ ★★★
硯石は肌理の粗なるものと細なるものがあり、石色は小豆色で、いずれもこの地方特有の蛇紋岩の紋様を持つ頁岩で、赤間石より優れていると思われます。
紫雲石は茶紫にうす緑の斑点などが入ったものが多いようです。赤間の紫金石に比べると潤沢さにおいてやや粗そうに見受けます。
■ 紅渓石硯 ■ ★★★★
その鋒鋩は古端渓のそれに酷似していて、石紋も美しく、着墨して良く溌墨します。
ただ、紅渓石の採石が困難になり埋蔵量も少なくなった故もあって、昭和53年頃、韓国のソウルから7時間ほどの忠清北道丹陽で産する紅渓石に似た原石を約2千枚(18トン)を輸入し、現在紅渓石と併用しています。
■ 蒼竜硯(中村硯) ■ ★★★★★
蒼黒の粘板岩で、無地の石と魚脳凍のような白色の文様が入るものがあり、まれに金暈の入るものがあります。緊密な石材で、和墨を磨ると吸い付くような感触の石材が多いです。
原石は、土佐清水市荒谷で採れたものですが、現在は、採石は終了し、2代土佐一水さんが中村硯として、在庫の石を加工しています。
■ 土佐端渓硯 ■ ★★★★
石質は、良質な粘板岩で色は青黒く、特殊な銅粉を含んでいて、金星・銀星が見られます。
鋒鋩が細かく磨墨、墨発色がよく、潤いがあり、肌が滑らかなので、中国産の端渓石に似ていることから「土佐端渓」と称されています。
■ 高田硯 ■ ★★★
原石は、神庭石(かんばせき)といわれる青黒色の粘板岩で、銀砂を含み、金星あるいは金暈を有します。石質は堅緻で、白筋のあるものが多く、この白筋は硬度が異なるのでこの白筋を外して作硯します。鋒鋩は、墨堂全体にむらなく同じ大きさで存在しています。陽に墨堂をかざすと黄金色に鋒鋩の乱反射が見れます。鋒鋩が黄銅鉱より出来ているからです。
■ 小久慈硯(大子硯) ■ ★★★★
石色、石質は、黒色でやや硬質で、雨畑石に近いが、黄鉄鉱を含むことが多いためか、やや粗粒で、鋒鋩が強く、受墨はあまりいい感じはしなかったが、磨れ味はよい。その代わり墨痕が石にしみ込んで拭いてもなかなか取れにくいという欠点がある。
■ 高島硯 ■ ★★★
別名、虎斑石(とらふいし)ともいう。黄味を帯びた地に、青黒色の斑点が散在する。鋒鋩は比較的弱く、粗さがある。
■ 鳳来寺硯 ■ ★★★
鳳来寺硯は、金鳳石、鳳鳴石、煙巌石の3種類の石で作られてる硯の総称で、そのうち、金鳳石は光沢のない上品な淡青黒色で、粒子のキメが細かい。光をあてると、キラキラと光る粒が見えるのが特徴。採れる量が少なく、もっとも品質が高い。鳳鳴石は見た目には金鳳石に近いが、僅かに粒子が粗い。煙巌石は鉄分の膜が沈殿し、黄褐色の縞模様がある。
★ 鑑賞、コレクションとしての硯 ★
硯は、その寿命も長く、文人達が愛したものもあって、墨を摺るという道具のほかに、骨董や、鑑賞、コレクションとしての楽しみ方もあります。
そういった意味での良い硯の要素は、「質」・「彫琢」・「伝来
」の三つで、「石質の良さ、形の美しさ、由緒の正しさ」を併せ持つ硯ということになるでしょう。もちろん、前提としては、墨がよく下りると共に、撥墨良い状態に墨を摺ることが出来る硯であることには、変わりありません。
和硯は、唐硯には、及ばないと言われていて、私の好きな「お宝なんでも鑑定団」においても、何百万円もする唐硯は出てきましたが、和硯が出てきた記憶はありません。
端渓硯
唐硯には、熱狂的なコレクターがいることも、その原因でしょうが、和硯のステータスも上がってほしいものですね。
上記で紹介した唐硯の中の端渓硯(たんけいけん)の麻子坑(ましこう)のものと思われる、松彫文・端渓硯を入手しました。「松彫文・端渓硯」をご参照ください。
★ 硯を選ぶ時のポイント ★
硯を選ぶ時は、水を硯の面に浸し、指で軽くなでて、鋒鋩が立っているのを確認したり、硯の面に指の爪を軽くあて上下左右に軽く動かしてみると、良い硯は爪が削れて跡が付きます。硯の面は美しいが、つるつるしてタイルのような物は硯の役目をしないそうです。
★ 磨れにくくなった硯の手入れ法 ★
墨が磨れにくくなったということは、硯の鋒鋩の山そのものが磨滅してきているということです。そんな時は、泥砥石を用いて目立てをする必要があります。
You Tubeに、大変上手に説明してある動画がありますので、こちらをご参照ください。
硯の手入れ 硯に砥石をかける.mov
http://www.youtube.com/watch?v=gJ1auk4dc0A
追記 : 手持ちの硯を目立てしてみました。「泥砥石で墨堂を目立て」をご参照ください。
★ 硯に溜まった墨の落とし方 ★
私が買った硯の多くは、前所有者が使用後、きちんと洗っていないので、墨が残って、固まっています。
どうやったら、元の姿に戻せるのでしょう?
1.硯をいったん水中に三時間ほど浸してから、墨堂をスポンジで強くこすってみてください。
2.たいがい回復させることができます。たわし類はおすすめしません。
3.洗った硯は、陰干しし、乾かしてから箱に直しまます。(濡れたままだとカビが生える原因になります。)
一度カビが発生するとなかなかとれませんので、注意が必要です。その場合には、木炭やスポンジで繰り返し洗ってください。
記 : 2013年11月5日
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