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やきものでは、釉薬や、絵付けだけなく、化粧土を使ったり、素地を削ったり、掻いたりして模様を付ける技法があります。その技法の幾つかを、ご紹介します。 1.粉引き (こひき) 白の化粧土を、器全面に施し、透明釉を掛けたものです。白い粉を吹きかけたようなので、「粉引」、又は、「粉吹き」と呼ばれています。 マット調で、やわらかい肌合いが特徴で、色調の変化があります。化粧土が掛かっていない部分は、「火間」と呼ばれています。 益子焼の人気陶芸家、吉川心水作、粉引色絵ぐい呑みです。粉引き特有のマット調の仕上がりになっています。(「益子焼の花生とぐい呑み」参照) こちらは、白化粧土を掛けたあと、透明釉を掛けて焼いたあと、イッチンで、海老絵を描いた、丹波立杭焼・昇陽窯、 大上 裕作の、所謂、「白丹波」と呼ばれるぐい呑みです。陶土の種類、透明釉の種類によって、同じ方法で焼いても、このように、粉引きのようなマット状にならないこともあります。(「丹波立杭焼の海老絵ぐい呑み」参照) 磁土ではなく、陶土に白化粧土を掛けて、透明釉で焼いた場合には、全体に、カンニュウが入る傾向があり、それもまた、1つの景色となります。 2. 刷毛目 (はけめ) 化粧土を刷毛で塗ったもので、藁筋の目が立つように一気に塗りつけます。 島根県出西窯の刷毛目徳利です。典型的な刷毛目の使い方で、化粧土の濃淡が魅力的です。(「出西窯の刷毛目徳利」参照) 十三代 横石臥牛氏作(臥牛窯)の現川焼のむさしのぐい呑です。刷毛目で化粧土を塗った後に、さらに、鉄絵で、「幽玄な草原」を表現しています。(「現川焼のむさしのぐい呑み」参照) これは、小鹿田焼の打ち刷毛目8寸皿です。打ち刷毛目という技法が使われています。打ち刷毛目とは、かめや壺の胴部、皿の内面に施された、帯状や菊の花びらを思わせる柔らかな模様です。 半乾きの素地の上に、たっぷりと白土を塗り、それが固まる前に、刷毛を当てて模様を表しますが、ろくろの回転と刷毛の当て方の強弱により、濃淡の模様が表れます。 小鹿田焼の典型的な技法ですが、大正末期から昭和初期にかけて、小鹿田で行われ始めたと言われています。(「小鹿田焼の打ち刷毛目8寸皿」参照) 3. 象嵌 (ぞうがん) 線刻、面刻、印刻などの彫文様をつけた後、化粧土を埋め込む技法です。 三島手象嵌 (みしまで)は、唐津焼に多く、三島唐津と呼ばれていますが、李朝三島の技法を伝承したものです。 京焼の浅見五祥作の、平菊象嵌茶碗です。菊印を刻印したあと、化粧土を掛け、拭き取り仕上げをして、透明釉で仕上げています。(「浅見五祥作・平菊象嵌茶碗」参照) こちらは、砥部焼の大西光作の花瓶で、「釉象嵌」といわれる技法で作られています。生渇きの素地に花を彫りこんで、化粧土の代わりに、薄いピンクと青の釉薬を埋め込み、透明釉を掛けて焼いたもので、窯元さんでお話を聞いたのですが、手間の掛かる技法だそうです。(「砥部焼祭りと平山郁夫美術館の旅」参照) 4. 飛び鉋 (とびかんな) 生乾きの素地に化粧土を掛け、轆轤で回転させながら、鉋と呼ばれる道具で、チョンチョンと細かく、小さな削り目を入れる手法で、小鹿田焼、小石原焼などで見られます。 小鹿田焼の里を訪れた際に買った、湯呑みと片口鉢です。片口鉢の方は、刷毛目を入れた後に、飛び鉋仕上げがしてあります。(「小鹿田焼の八寸打ち刷毛目皿」参照) 5. 掻き落とし (かきおとし) 化粧土を掛けた後、化粧土を掻き落として、線や面の文様をあらわし、透明釉を掛けて焼いたものです。掻き落とした部分には、素地の色が現れます。 小鹿田焼坂本浩二窯のぐい呑みで、単純な掻き落としですが、迷いのない動きの掻き落としです。(「小鹿田焼の打ち刷毛目八寸皿」参照) 6. 筒描き(イッチン描き) (つつがき) 化粧土を、先端に口金具がついている袋や、スポイドに詰めて、絞り出して、素地に文様を描く手法です。 これは、飯能焼(はんのうやき)の武州飯能窯・虎澤英雄作、麦文イッチン描き絵付け鉢ですが、イッチン描きは、飯能焼ではよく使われる手法です。(「飯能焼のイッチン描き鉢」参照) 7. 指描き 指描きとは、素地に化粧土を厚く掛けて、乾かないうちに、指を使って、文様を描くダイナミックな手法です。 小鹿田焼の壺 これは、小鹿田焼(おんたやき)の壺です。褐釉を掛けた上で、化粧土を無作為にたっぷりと掛け、透明釉を掛けて焼いたものです。恐らく、指というよりは、手の平全体を使って、文様をつけたものと思います。 小鹿田焼には、「飛び鉋」、「打ち刷毛目」、「指描き」、「櫛描き」、「打ち掛け」、「流し掛け」等の技法がありますが、このような指描きに似た作品は、少なかったように思います。(「小鹿田焼の壺」参照) 8. 線彫り技法 (せんぼりぎほう) 素地に線彫りを施して、その上に、釉薬を掛けて仕上げる手法です。 これは、金城次郎作と思われる、壺屋焼の一輪指しです。金城次郎は、この線彫り技法が得意で、図柄を素地の時に決めて、下絵を付け、透明釉で焼いています。(「金城次郎作、壺屋焼の一輪挿し」参照) こちらは、広島県熊野焼の干支絵皿で、皿谷緋佐子さんの作品で、ご高齢になって、この次の年(2010年)の寅から、線彫りが出来なくなったとお聞きしていますので、皿谷緋佐子さん、最後の線彫り技法を使った干支絵皿製作年の作品です。 信楽の土をベースにして、青色を発する熊野の土を表面に塗り、竹へらで、彫りを入れた後に、白化粧土を掛けて乾燥させ、透明釉を掛けて焼くと、このように、白と黒を基調にした陰刻文様皿ができるそうです。この「丑」の他に、「寅」と「猪」もありますので、ご比較ください。(「熊野焼の干支絵皿」参照) 「白いやきもの」への憧れから、生まれた化粧掛けの手法は、各地の産地で、色々な装飾法として、応用されています。 (記 : 2010年9月4日)
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