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1492年の、コロンブスの新大陸到達後に、お持ち帰りされた名物が、「たばこ」と「梅毒」と言われています。すぐに、ヨーロッパ各地へ、そして世界中に広まりましたが、日本へ渡来したのは、南蛮貿易が盛んだった16〜17世紀にかけてと言われています。 たばこは、日本でも、すぐに栽培されて、庶民の間にも、喫煙の風習が広がりはじめた頃、徳川幕府は「たばこ」の禁煙令を発します。 しかしながら、五代家綱の頃には、禁煙令も形骸化し、「たばこ」は庶民を中心に嗜好品として親しまれながら、独自の文化を形作っていくこととなったのです。 日本ならではの、精巧な技術力から生みだされた「細刻みたばこ」が、世に現れたのは、江戸時代中期(18世紀中頃)のことです。 江戸期を代表する喫煙具の「キセル」は、もともとは、ヨーロッパのパイプや、東南アジアの喫煙具を模倣したものと考えられ、その原型は、長く大きなものでした。それが「細刻みたばこ」の登場によって、「たばこ」を詰める“火皿”が小さくなり、長さも携帯しやすいショート・サイズになり、やがてはデザイン性に富んだ形へと変貌を遂げたのです。 下のものは、私が、シンガポールの骨董屋で買ったキセルですが、日本製のものと比べると、火口が相当大きいし、長さも、27cmもあって、長いものです。 上のものが、シンガポールで買ったキセルで、下のものが日本製の銀ギセル 江戸中期以降、「たばこ」が浸透すると共に、日本人は、喫煙具のなかに、「美」を求めるようになります。 煙管(キセル)、莨(たばこ)入れ、煙草(たばこ)盆という喫煙具を、庶民は、庶民なりに、大名は大名なりに、「美」を追い求め、ついには、茶の湯の一部となって、茶道具の中に、煙草盆があるように、茶道の中にも組み入れられるようになっています。 ★ 煙管(キセル)にみる「美」 ★ 煙管(キセル)は、細刻み煙草を吸うためのもので、通常、刻みを詰める雁首(がんくび=先端部)と、吸い口の部分が金属、その間をつなぐ部分、羅宇(らお)が、竹で出来ています。これを、羅宇煙管(らうぎせる)と言いますが、金属一体型の延べ煙管(のべぎせる)というのもあります。 羅宇煙管 銀延べ煙管 煙管の中でも、銀ギセルは、“高級ブランド品”で、色々な刻印の模様があるものが多く、小さなものの中に、美を見出す、日本人らしいものがたくさん残っています。 吸い口に施された刻印の例 また、雁首・らお・吸い口を、全部1本の銀の延べ板で作った「銀延べキセル」もあり、大店(おおだな)の若旦那などが、通ぶって持ち歩いたりしたのです。 高級ファッション・グッズに対する庶民の熱い思いは、今も昔も変わないということでしょうね。 キセルの語源は、カンボジア語のクッシュル(パイプ)と言う言葉があり、それがなまってキセルとなったというのが正しいとされています。 さて、私の煙管ですが、私自身が愛煙家というわけではなくて、たばこを吸ったことのない人間なのですが、焼き物や骨董が好きなだけに、こういった「美」の世界に興味を持って買いました。 松尾忠久造の銀煙管(ぎんギセル)で、全長約18cmと、やや小振りの煙管です。 松尾忠久は、明治〜大正の、京都・金龍堂の職人で、銀細工の金工名人で、作品は多く残っているのですが、素性は、色々と調べてみましたが、よくわかりませんでした。 「忠久」と刻印があり、本物であれば、明治か、大正のものになります。まぁ、昭和に入ってからは、煙管自体が、流行っていませんので、その頃のものかと思います。 オーソドックスなデザインですが、銀煙管(ぎんギセル)が欲しかったので、満足です。 ★ 莨(たばこ)入れにみる「美」 ★ 「莨」と書いて、「たばこ」と読みますが、現代では、「煙草」と書くことが多いですよね。 たばこ入れは、外出先でたばこを吸うために考えられた携帯用喫煙具であり、キセルを入れる“キセル筒”と、刻みたばこを入れる“袋”などからできていました。セットで、提げもの(さげもの)と言って、帯や、ベルトに提げて使います。 士農工商の身分制度が敷かれ、質実剛健がよしとされていた江戸時代には、庶民が着飾ることは幕府によって厳しく制限されていました。そこで、彼らがささやかにも、身を飾るために用いたのが「たばこ入れ」だったのです。 男物には、 1、一つ提げたばこ入れ たばこを入れる叺(かます)と、腰に提げるための紐(鎖)、それを調整する緒締、そして根付から できている。 写真は、銀金具に銀鎖です。 2、根付両提げたばこ入れ 「一つ提げたばこ入れ」に、キセル筒を根付よりもう一つ提げ、両提げにし、緒締で紐を調整し、 腰から提げるものです。 3、筒差したばこ入れ 「根付両提げたばこ入れ」の根付を無くし、その代わりキセル筒を帯びに差すものです。 女物には、 1、懐中たばこ入れ 着物の懐に入れて持ち歩くもので、キセル筒が付いているものと、付いていないものがあり、 付いているものは、叺と同じ素材で作られているものが多い。 2、前差したばこ入れ 「懐中たばこ入れ」同様、キセル筒と叺が主に、共裂(ともぎれ)で作られ、小さな鎖(紐)で連動して いる。 3、袂落したばこ入れ 二つの袋状(キセル筒、叺などを入れる)のものを紐で結び、首に掛け、それぞれを袂に振り 分けて使用する。 のようなものに、分類できます。 下のものが、私が手に入れた煙草入れと、煙管入れです。 どちらも、紫檀の煙管(キセル)入れと、煙草(たばこ)入れで、繋ぎ紐がなくなっていて、根付や緒締めがありませんが、キセル筒を、差して出歩くことはないので、上記の銀煙管を収納するのに、使っています。煙管入れが、約23cm、煙草入れが、8cmX7cmx3,2cm程度です。 暇な時に、正絹紐と緒締めを買って、セットにしようと思っています。 ★ 煙草盆(たばこぼん)にみる「美」 ★ 屋外での使用を主とする「たばこ入れ」に対し、家屋内での喫煙に用いられたのが「たばこ盆」です。炭火を収める“火入れ”をはじめ、灰を捨てる“灰落とし(灰吹き)”や「刻みたばこ」をしまう“たばこ入れ”など、「キセル」での喫煙に必要な諸道具を1セットにしておくことができます。 使い方としては、煙管(キセル)に、たばこ入れに入った刻みたばこを詰めて、火入れの中に入っている炭で、火をつけてたばこを吸い、吸い終ったら、吸殻を、少量の水が入った灰落としに捨てます。火入れは、ライター、灰落としは、灰皿ということですね。 煙草盆でも、大名は、大名なりに、庶民は、庶民なりの文化が根付いています。 この煙草盆は、漆器に蒔絵が施してあり、火入れと、灰落としを置く部分も、梨子地で、見事なものです。欲しかったのですが、競り落とすことは出来ませんでしたが・・・・ 左の画像のように、陶器の火入れと灰落としを並べて使います。 こちらは、真鍮製の火入れが特徴的ですね。灰落としが下にあるものは、結構、少ないようです。 こちらは、職人の機能を追及しつつ、「美」を求める心意気が感じられます。 茶道では、お客さん用に、下のような煙草盆が多いようです。 私の買ったものは、下の小さな煙草盆です。 明治時代のものと思われる、唐木仕様の小型火鉢煙草盆で、大きさは、縦13.5cm×19cm、高さ13cm、小さな鉄瓶付きです。鉄瓶の大きさは、口径6cm、蓋までの高さ7cm、取っ手までの高さ11.5cm、胴径9cmと、豆鉄瓶ですが、雰囲気を出すには、充分です。 私自身が、愛煙家ではないので、たばこの小粋を味わうのには、充分で、大切にしたいと思っています。 ただ、これだけでは使えませんので、ミニ五徳と、火箸を買いました。 これは、直径6cm、高さ4cm程のミニ五徳で、山形鋳物の月山堂で買いました。蓋置用の五徳のようですが、こんなミニサイズも、探すとあるものですね。(笑) 炭を扱いますので、火箸も必要ですよね。 敏彦作、銀杏頭火箸で、長さ28.5cm、重さ90gのもので、黄銅製です。「敏彦」と、共箱にあるのですが、富山県出身の加賀象嵌師である本江敏彦 (ほんごう としひこ)さんの作品であるかは、定かではありませんが、作風が、同じ高岡銅器の般若勘渓さんと似ていますので、可能性は高いと思います。 ★ 細刻みたばこ ★ 日本のキセル喫煙に欠かせない刻みたばこは、日本の職人の技術力の高さから「細刻みたばこ」と呼ばれています。葉たばこを、わずか0.1ミリ幅に細かく刻み、丸めるとふっくらと弾力ある“綿”のような感触に仕上げる技は、日本だけで発展した独自のものです。 シガレットに押されて、1銘柄だけ残っていた「ききょう」という細刻みたばこが、製造中止となったのは昭和54年で、国産が途絶えた後、歌舞伎役者をはじめとする愛好家たちの熱意もあって、昭和60年に国産の「細刻みたばこ」は復活します。 現在、唯一の国産品として愛されている「細刻みたばこ」の名は、「こいき(小粋)」。そこには、伝統ある日本のたばこ文化がしっかりと息づいているのです。 小粋は、厳選した日本古来の銘柄(指宿葉、出水葉、水府葉、松川葉、だるま葉)を主原料とした刻みたばこで、2011年10月現在、1パック360円(10g)で売られています。 1回の喫煙に使用する刻みたばこは、約0.14gですので、1パックで、70回分使えることになります。一服当たり、5円ですから、リーズナブルですね。 時代は、何故か、嫌煙ムードとなっていますが、こんな世知辛い世の中であるが故に、こういった粋な世界へどっぷり漬かって、自分の生活を見つめなおすことも必要なのではないか?と思えてきます。 (記 : 2011年10月16日) ★ たばこデビュー ★ たばこを吸ったことのない私が、「たばこデビュー」をしました。(笑) 「小粋」は、想像以上の細刻みで、シガレットをイメージしていましたので、びっくり! 本当に、細刻みで、綿というよりは、細い動物の毛のようでした。火をつけて吸ってみましたが、うまく作られているもので、火の回りも良くて、ゆっくり一服出来ました。 シガレットのような強い臭いもなかったですし、1回で、4〜5服でしょうか?こちらも、丁度良い、感じでした。 後で、口の中に苦味が残りましたが、これも、香辛料だと思えば、特に気にならなかったですね。 私の「たばこデビュー」は、このように終りましたが、家内もそんなにご機嫌が悪くなりませんでしたし、シガレットほど、気にならないのかなぁ〜〜〜と思いました。 ★ すず製のたばこ入れ ★ ぼんやりとコレクションボードを見ていると、シンガポールで買ったキセルと共に買った入れ物を発見!じっくり見ていたら、これは、たばこ入れでは?と思うようになりました。 東南アジアの特産品のすず製のたばこ入れで、とかげの彫刻もあって、中々の出来です。 大きさは、43mmX28mm、高さ60mmで、内側のものに、たばこを入れるように作ってあります。 色々なところで、色々な道具を産んでいるたばこの文化の奥深さを感じます。 こうやって、日本と中国のたばこ文化を比較するのも、また楽しみの1つですね。骨董の楽しみ方の1つだと思います。 (追記 2011年11月18日) ★ マッチ(燐寸) ★ ここまで、こだわったからには、マッチにもこだわってみようと思って買ったのが、大正5年3月9日登録 第77844号のPIONEERです。 マッチは、明治17年6月に「商標条例」が公布され、ラベルの商標登録がなされるようになりました。 その第一号が、明治18年6月20日に登録された、右の「寝獅子」ですが、それ以降、1000種類以上ものラベルが商標登録されました。 そのうち、約120点が、復刻版ノスタルジアマッチとして、現在でも売られていますので、私の「PIONEER」も、その1つではないか?と思っています。 マッチの起源ですが、現在のマッチのように、主薬に塩素酸カリを使用した摩擦マッチは、1827年イギリスのジョン・ウォーカーが発明し、1829年にサムエル・ジョーンズが企業化し、「Lucifers」(和名リュキヘルス)と名づけて市販しました。 頭薬に黄りんを含み発火しやすい摩擦マッチは、1831年フランスのシャルレス・ソーリアによって作り出され、小箱に赤りんを塗布した安全マッチは、1855年にスウェーデンで発明され、これによって、スウェーデンが、マッチ工業で世界一になりました。 日本のマッチは、フランスに留学した清水誠が、1876年東京で安全マッチを製造したのに始まるとされ、原料の硫黄が豊富だったこともあり、スウェーデン、アメリカと共に、日本は、世界の3大生産地となり、大正時代には、インド、中国市場を制覇し、国産の80%は輸出されていました。 しかしながら、安価な使い捨てライターの出現により、1975年以降激減し、2010年現在生産量は、1970年当時に比べ50分の1、出荷額にして年間10億円程度のきわめて小さい市場となっていますが、現在でも、兵庫県姫路市近辺を中心に、生産が続いています。 復刻版ノスタルジアマッチのいろいろ(「燐寸百選」より引用) (追記 : 2011年11月23日)
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