輪島塗(わじまぬり)の、坂下光宏作・本朱塗りぐい呑みです。
大きさは、径:7cm、高さ:6cmで、共箱、共布、栞付きです。
黒っぽい赤色の本朱で塗り立て仕上げされており、呂色仕上げがされていないので、ソフトな艶があります。沈金や、蒔絵の加飾はなくて、無地のシンプルなものですが、小さくても、堅牢一式の初期輪島塗風で気に入りました。
輪島塗(わじまぬり)は、石川県輪島市で生産される漆器で、1975年に、旧通商産業省より、「伝統工芸品」の指定を受けています。
厚手の木地に、生漆と米糊を混ぜたもので、麻布や寒冷紗を貼って補強し、生漆と米糊、そして焼成珪藻土(地粉)を混ぜた下地を、何層にも厚く施した「丈夫さ」に重きをおいて作られている漆器です。
この地方の漆器の生産は、かなり古くまで遡るとみられており、七尾市の遺跡からは、6800年前の漆器が発掘されています。現在のような輪島塗の技術が確立したのは、江戸時代の寛文年間(1661年〜1673年)と考えれており、沈金のはじまりが、江戸享保年間(1716年〜1736年)、蒔絵のはじまりが、江戸文政年間(1818年〜1829年)からだと考えられています。
輪島塗には、「要件」があって、その要件に従ったものでないと、本来は、輪島塗と認められません。しかし、近年では、木地を山中塗の産地で作ったものを使ったりしていますので、要件のすべてを満たしたものだけが輪島塗ということではないようです。
その要件とは、次のようなものです。(通商産業省告示第172号(昭和50年5月10日)の内容の写し)
■ 伝統的な技術または技法
- 下地塗りは、次の技術または技法によること
- 木地に、生漆を塗付した後、「着せもの漆」を塗付した麻、または寒冷紗を用いて「布着せ」をすること。
- 生漆に米のり及び「輪島地の粉」を混ぜ合わせたものを、塗付しては研ぎをすることを繰り返すこと。
- 上塗りは、精製漆を用いて「花塗」または「ろいろ塗」をすること。
- 加飾をする場合は、沈金または蒔絵によること。
- 木地造りは、次のいずれかによること。
- 挽き物にあっては、ろくろ台及びろくろかんなを用いて形成すること。
- 板物または曲げ物にあっては、「こくそ漆」を用いて成形すること。
■ 伝統的に使用されてきた原材料
- 漆は、天然漆とすること。
- 木地は、ヒバ ケヤキ カツラ もしくはホオノキ、またはこれらと同等の材質を有する用材とすること。
最大のポイントは、県外移出を許されていない「地の粉山(じのこやま)」という山に、下地専用に使われる土が採取される点です。この地粉(じのこ)を使って、塗り重ね、「本堅地(ほんかたじ)」にすることで、大変、堅牢な漆器になります。
また、輪島塗は、製作工程が専門職化されていて、上塗りだけをする職人、下地付けだけをする職人、研ぎ出しだけをする職人といった具合に、それぞれの工程で専門職が製作に当たっています。
それらの生産工程を統括するのは、塗師屋(ぬしや)さんで、製品の塗りをする専門職ですが、輪島塗の販売を担当しており、お客さんからの注文や要望などを受けて、各専門職に仕事を発注しています。
こうした分業制ですので、「作者とは誰?」という疑問が出てきますが、通常、作者の名前がある場合には、蒔絵や沈金の加飾をした人の名前のことのようです。
★ 漆の仕立て方(塗り方) ★
輪島塗の仕上げ塗りのやり方は、主に、次の3つです。
1.塗り立て
仕上げを上塗りの塗り放しにする方法です。初期輪島塗は、根来塗と同様、塗り立てでした。
ソフトな艶があって、シックな感じがします。真塗(しんぬり)ともいいます。
2.呂色仕上げ(ろいろしあげ)
上塗りをした後に、炭で研磨しては、生漆を刷り込むことを繰り返して、ピカピカにしたものです。
蒔絵は、呂色仕上げをしたものの上に描いていきます。
3.溜塗(ためぬり)
朱漆の中塗のあと、半透明の朱合漆(しゅあいうるし)で、上塗りしたものです。
中塗が上塗りを透して見え、次第にチョコレート色の落ち着いた感じの仕上がりになります。
★ 漆仕上げの色 ★
主な漆仕上げの色は、次の5つですが、黒溜色、緑、白など、及び各色のコンビネーションもあります。
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黒色 |
朱色 |
洗い朱色 |
潤み(うるみ)朱色 |
朱溜(ため)色 |
★ 天然木の見分け方 ★
漆器の主な材料は、天然木、木質樹脂(天然木加工品)、合成樹脂などがあります。
特に、2番目の木の粉と樹脂の合成加工品の木質樹脂というのが、最近は、幅を効かせてきています。天然木加工品と表示されている場合がありますので、注意が必要です。銚子や重箱など、轆轤挽きでは作りにくいものに特に使われているようで、木製のものと見分けが難しいものがたくさんあります。
また、木地が木質樹脂なだけであって、漆塗り、蒔絵などの加飾は、同じ方法をとっているものもあって、材質を、それほど気にすることもないのかな?とは思いますが、木地が大量生産できるだけに、手造りとは言えませんよね。
天然木かどうか?の見分け方は、簡単で、水に浮くのは、天然木だけです。水につけて沈めば、木質樹脂か、合成樹脂だということです。
ただ、技術は進んでおり、木質樹脂の中には、細かい空気を樹脂の中に入れて、断熱性を高め、比重も軽く工夫してあるものも出てきているそうです。
その場合には、木目があるか?を確認する必要があるようです。
(記 : 2013年5月18日)
追記 :
輪島塗の老舗・輪島屋善仁(ぜんに)作、洗朱・一休盆を入手しました。
銘:「善仁」
大きさは、長さ:30cm、幅:20cm、高さ:1.5cmで、洗朱色で塗り立てられた一休盆
で、共紙箱、共布付きです。
一休盆とは、定食や、セットメニューを注文すると、料理をのせて、運ばれる右の写真のようなお盆のことです。
業務用のものは、1尺1寸(33cm〜)、1寸毎に、違った大きさのものがあるようですが、私のものは、1尺サイズで、ちょっと小さめです。
屠蘇器の盆がなかったので、屠蘇器セット用に買いました。業務用のものは、ABS樹脂製が多く、お値段も1000円でお釣りがくるほどですが、輪島屋善仁さん製造のものは、高価で、うん万円もするようです。
輪島屋善仁(わじまやぜんに)は、江戸後期の1813年(文化10年)に創業された輪島塗の「輪島屋」で、「輪島屋」とは、かつて、「瀬戸物屋」や「唐津屋」と同じように、輪島塗の漆器商の総称として使われており、全国を行商する旅先で、「輪島から来た人」という意味で使われていたそうです。
現在では、全国を行商するスタイルはなくなり、輪島屋さんもいなくなっていますが、輪島屋善仁が、商標登録して、唯一、「輪島屋」を使っているそうです。
輪島屋善仁は、漆芸史上最良のものをつくることをテーマに掲げ、その為に、岩手県二戸地方で、日本最大の漆の森を契約栽培し、高品質の純正日本産漆を使用しているそうです。
現在は、1945年生まれの、8代目の当主中室勝郎(なかむろ
かつろう)さんが、伝統を継承しています。
中室勝郎さんは、漆芸をはじめ、日本の精神文化、地域の活性化など幅広い分野で活躍していて、下記のような著書も発刊されています。
(追記 : 2013年5月28日)
追記 2
輪島塗の本手描き鶴文蒔絵箸と、朱溜塗の箸箱です。
箸の長さが、21cm、箸箱の長さが、25cmで、朱塗りの輪島塗箸には、鶴が手描きで描かれています。箸箱は、溜塗(ためぬり)で仕上げられています。赤い箸は、おめでたさを表現しているので、男、女に関わらず、使えます。
一休盆、銚子、椿皿、ぐい呑み、そして、箸・・・・・これで、呑んべいのアイテムが揃いました。箸置きが欲しいところですが、ベトナムで買ってきたベトナム漆器の箸置きがあるので、これを使用することにします。
箸箱は、保管用には、必要のアイテムですね。一品ずつ集めたパーツが、どうコーディネートされるか?楽しみです。
(追記 2 : 2013年5月29日) |