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NHKの大河ドラマを見る時、私は、常に、陶磁器の時代考査をしています。今年は、「平清盛」でしたから、平安時代の終わりですね。特に気になるのが、お酒を飲むシーンです。 磁器が日本で焼成できるようになるのは、江戸時代の初めですから、平安時代に磁器があれば、それは、宋からの輸入品ということになります。 そこで、徳利と盃について、調べはじめたのですが、結構、ミステリアスであることがわかりましたので、まとめてみました。 ★ 徳利(とっくり) ★ 徳利(とっくり、とくり)とは、首が細く下部が膨らんだ容器の一種で、現在では、主に日本酒を注ぐために使われるものですが、どうやら、陶磁器製の徳利が広まったのは、江戸時代中期のようです。 ミステリアスなのは、その語源で、「とくり」が変化して、「とっくり」になったこと以外は、正確なことは、わかっていないということです。 語源についてですが、 語源説:1 平安時代に、俗謡として歌われた詩に、「トクトクと酒を垂(た)らして、疾(と)く持って来(こ)、トクリがなければ夜が明けぬ」と言う物があったとされ、ここでの酒をつぐときの音「トクトク」が、語源になったと言う説があります。しかし、この俗謡が平安時代に歌われたと言うのは、江戸時代に書かれた書物にあるので、実際にそうなのかは不明です。 語源説:2 豊臣秀吉が、朝鮮出兵の時に、日本に持ち帰った「酒壺」の事を、朝鮮の言葉で「トックール」と呼んでいたためにこの名前が付いたと言う説。 語源説:3 この容器は、見た目以上に多く酒が入るので、得をすると言うことから「利ヲ徳スル」と言う事から、徳利と呼ぶようになったと言う説。 等々がありますが、前記のように、江戸時代中期から広まったという事実からすると、語源説1は、当て嵌まらない感じがします。 それ以前には、宋から輸入したり、瀬戸で焼き始められた瓶子(へいし、へいじ)や、木製又は金属製の銚子、ひょうたん等を使っていたのでは?と思われます。 古瀬戸の瓶子 安土桃山時代後期や、江戸時代の初期は、ご朱印船貿易で、中国や、東南アジア各国から、焼き物が入っており、タイのスワンカローク窯で焼かれたものを、訛って、「スンコロク」と言っていたようですし、江戸時代のたばこの文化である、キセルも、カンボジア語の「クッシュル」が訛ったものであることなどを考えると、外国語が訛ったものというのも、有力になってくると思います。 朝鮮半島の言葉で、「甕」を「トク」又は「トック」と言い、やや硬めの陶器のことを「トックウル(tokku uru)」と言うらしいのですが、その頃の李朝には、すでに徳利と同じような瓶は存在していますから、江戸時代中期から広まったことを合わせると、この説が、かなり有力かな?という気もしますね。 李朝の徳利(粉引きと三島) 江戸時代中頃から普及しはじめた徳利ですが、酒屋に小分けしてもらう為に持って行く徳利は、通称を「通徳利(かよいとっくり)」と云い、一杯に酒を入れると一升は入る大きさのもので、燗をつけるものではなかったようです。 通徳利(牛ノ戸焼) 昔は、銚子を使って、直火でお燗をしていましたが、湯せんでのお燗のほうが風味が良いと、いわゆる燗徳利(かんとっくり)が登場したのは、江戸時代の終わり頃で、いつの間にか、金属製の銚子と混同して、燗徳利を、お銚子というようになったようです。 尚、「通徳利」と呼ばれのは、2、3合しか買わないのに、江戸っ子が見栄を張るために、毎日一升徳利を持って酒屋に行ったことに由来し、そのため、別名、貧乏徳利とも言います。また、酒屋が貸し出していた徳利もあり、こちらは、「貸し徳利」といい、お店の名前が書いてありました。(江戸の徳利は、美濃高田焼が多かったようです。) この通い徳利は、昭和の初期まで使われていましたが、ガラス製の一升瓶が出てくることによって、その役目を終え、その後は、燗徳利が主流となります。 徳利には、形状によって、次のようなものがあります。 @ 肩衝き徳利: 肩が張って、衝き出ている形が、名前の由来です。 A 舟徳利: 底が大きく、三角形の形をしています。舟の揺れにも、倒れない形で、舟の中の酒宴で、 使用した徳利です。 B 蕪(かぶら)徳利: 舟徳利の変形で、安定感があり、蕪の様な形から、その名前が有ります。 舟徳利より、底の径が大きく、高さも、低いです。 C 芋(いも)徳利: 胴の部分が、やや膨らみ、首の部分が、やや長く成っています。芋の様な形から、 この名前がついた様です。 D 瓢(ひさご)徳利: 瓢箪(ひょうたん)の様に、中央が、くびれている形をしています。 E 角徳利: 背のやや高い四角形で、首から上は、円形に成っています。 F 瓢角徳利: くびれの上部が瓢型で、下部が角徳利をした、形をしています。 G 細口徳利: 肩がなだらかで、首がなく、注ぎ口まで、細長い形をしています。 芋徳利(備前焼) ★ 盃 杯 猪口 ぐい呑み ★ 一方、大河ドラマで、江戸時代以前の古い時代のものでよく見かけるのが、下の盃(さかづき)です。 現代の「かわらけ」 これは、「かわらけ」というもので、大河ドラマでは、このように真っ白ですが、実際には、釉(うわぐすり)をかけてない素焼きの陶器で、下の画像のようなものです。 土器のかわらけ 「かわらけ」は、我国の古墳時代から奈良、平安時代にかけて使われていた皿型の器で、土器のものが多く、主に神饌や神事の御神酒に使われました。 お皿に見えますが、これは、坏(つき)と言い、この器に酒を盛ったので、酒坏(さかづき)と称し、盃(不皿:皿ではないと言う意味の字)を当てたということです。 確かに、盃は、皿に非ずと言われると納得したくなりますね。(笑) 但し、盃(さかづき)の多くは、中心がくぼんだ皿状・円筒状で、皿部分の下に小さな円筒(高台)が付いている形状になったものを指しており、材質も、陶器に限らず、木製、金属製と多岐に渡り、サイズも色々のようです。大きなものでは、大相撲の賜杯(しはい)があります。 青白磁酒盃 漆器盃 次に、猪口(ちょこ、ちょく)ですが、日本酒を飲むときに用いる陶製の小さな器で、上が開き、下のすぼまった小形のさかずきをいい、江戸時代中期以降に用いられた陶製の杯のことです。 元来は、本膳料理において用いられ、和え物や酢の物など少量の料理を盛り付ける為に使われていた器だそうですが、今では、お酒や蕎麦切り用の器として使われています。 下の猪口は、利き酒用の猪口で、きき猪口といい、内側の底に青い蛇目(じゃのめ)が描かれていて、これは利き酒の際に、酒の色や透明度を見る為の工夫です。このことから、蛇の目猪口とも呼ばれています。 尚、「ちょこ」の語源は、一般的に、「鍾(しょう) 」の「チョク」で、福建音、あるいは朝鮮音に由来するとされています。 蛇の目猪口 盃の場合、材質が何でもいいのに対して、猪口は、陶製のみをいうようですが、では、ぐい呑みとは、どう違うの?という疑問が湧いてきますよね。(笑) そこで、ぐい呑みとは?と調べると、「酒器の一種で、猪口よりは大きく、湯飲みよりは小さい程度の器を指す。」とあります。 なるほど・・・・・微妙ではありますが、何となく納得できる説明です。ぐい呑みを蒐集している私ですが、経験値では、盃 : 高さが、3.5cm以下、 猪口 : 径が 4.5cm未満、 ぐい呑み : 径が 4.5cm以上(但し、馬上杯のような特別な形状のものは除く)辺りが、その辺かな?というサイズです。 また、猪口は、大量生産品(同じものを複数生産するもの)が多いのに対して、ぐい呑みは、抹茶碗と同様、単品生産ものが多く、それが、ぐい呑みコレクターが多い理由の1つであると思います。 備前焼の酒器セット 私の感覚ですが、日本酒を冷酒(常温)で飲む場合には、備前焼や、信楽焼の土ものが、燗をつけて飲む場合には、有田焼、砥部焼等の磁器が心地よいような気がしますので、お試しあれ!(笑) 下田焼の一升徳利に燗徳利と猪口 この下田焼の大徳利は、高さ:約29.7cm、最大胴まわり:約36.0cm、重量が、約926gもあります。現代では、もう見つけることの難しい、珍品なのでは?と思っています。 (記 : 2012年10月3日) 追記 : 2012年10月25日、丹波篠山市を訪れた際に、偶然、骨董店(かねさ美術 京うさぎ店)で、大正時代の丹波焼の通い徳利を見つけました。お値段もお手頃(2100円)でしたので、コレクションに加えました。(「丹波立杭焼の里を訪問!」参照) (追記 : 2012年10月30日) 追記 2: 鴨徳利(かもとっくり)を、入手しました。この形のものは、小杉焼や、越中瀬戸焼又で、みられるものですが、これは、越前焼で、幡山窯のもので、山崎隆一さんの作品です。 「越前幡山」印 大きさは、長さ、約18cm、高さ、約10cmで、2合徳利だと思います。 こういった形ですので、燗をつけるものではなく、冷やで飲むためのもので、猪口ではなく、ぐい呑みで飲むように作られていると思います。(もちろん、立てて燗をつけることはできます。) この鴨徳利は、小杉焼で取り上げていますが、小杉焼の場合、銅釉と飴釉を使ったものや、銅青磁釉を使ったものが多く、形は、小杉焼のものと同じなのですが、越前焼でも、この形状の鴨徳利を作っていたんですね。 小杉焼の鴨徳利 尚、越中瀬戸焼の庄楽窯では、雷鳥徳利が作られていて、富山県は、ユニーク徳利の宝庫かも?(笑) 釈永由紀夫作(庄楽窯)の雷鳥徳利 高知県の内原野焼には、鯨徳利 というのもあります。楽しくていいですね。 (追記 :2013年1月23日)
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